趣味の広場

お題:乱あのハロウィーン - ゆり

2018/10/21 (Sun) 11:48:14

お話、絵、こういう仮装も良いなぁ等投稿してもらえるとうれしいです~(`・ω・´)

また、投稿後にやっぱり消したいなどの場合は、編集削除キーに番号を入れておくと便利です!
メアド、URLは記入不要です(^^♪

お約束は必ずお読みくださいm(__)m

Re: お題:乱あのハロウィーン - ゆり

2018/10/21 (Sun) 13:15:57

今日は我が家でハロウィンのホームパーティ。
主催はうちの父だというのに主役が乱馬だと言わんばかりに、招かれざる客とはやってくる。

「乱馬! トリックオアトリート!! お菓子持ってないならいたずらするね!」
「乱馬さまぁ。 わたくしお菓子を持っておりませんの。 いたずらしてくださいませ」
「乱ちゃん、甘いものよりうちのお好み焼きやぁ」


もう主旨が何なのかわからない、それでいていつもの追い回されるパーティ。

見回せば、家族は慣れたものと各々が食事に手を伸ばしたり、会話を楽しんでいる。

ぽっかり浮いてるのはあたしだけ・・・。

馬鹿らしくなったあたしは部屋に戻る。
あの光景はくつろぐべき自分の家でも見たくはないのだから・・・。

今日の帰りにゆかから手渡された雑誌を手に机へと座る。

「あかね、このハロウィンのコスプレ可愛いよ?」
「ほんとだ」
「あかねなら絶対似合うし、今度友達だけでパーティしようね」

ゆかはこの惨状を見抜いていたのだろう、あたしが楽しめるようにと女の子だけのパーティを準備してくれていたのだ。

机に座りその特集のページをペラペラとめくっていく。

時間潰しにはちょうど良かったのだろうか?
おそらく父たちは酔いつぶれ、後片付けも明日と静けさが戻ってきた。

もうあたしには我が家のパーティでありながら他人事とページをめくりつづける。

でもやっぱり追い回される乱馬が思い浮かび、ふと口からこぼれる。

「トリックオアトリート・・・か」

すると今まで自分ひとりだと思っていたあたしに後ろから声がかかる。

「甘い物持ってねぇ。 いたずらしてくれ!」

あたしは驚き過ぎて椅子を倒すように立ち上がる。

「ほら、いたずら!」

そう言いながら距離を詰めてくる乱馬。

「そ、そんなこと急に言われても思いつかない」

乱馬はもう目の前に立っている。

「何でも良いから」

そこまで言われてとりあえず目の前にいる乱馬の腕をそっとつねる。

「いたずら終り!」

ふっと笑う乱馬が「じゃ~俺から、トリックオアトリート」とあかねの腕を掴む。

「え? お菓子なんてないよ!」
「ふーん、じゃぁ俺もいたずらな」

つねられると思ったあたしは腕を引こうとしたが、反対の手で乱馬に腰を取られて、気づくと唇が重ねられていた。

内緒のオレンジ 1 - 憂すけ

2018/10/23 (Tue) 16:07:54

お題小説に飛び入り失礼致します!
乱あが大好きなぶっ飛び妄想野郎ですが、初めましての方も、のんびり緩く、繋がって頂けたら嬉しいです!どうぞよろしくお願い致します!<(_ _)>

・ ・ ・

遠くに浮かぶ切れ切れの雲の破片を眺めながら、男が溜息を吐く。

「・・・退屈でーす。」

深く腰掛ける革製の回転椅子を座ったままクルリクルリと回転させる。
遂には黒い椅子の上で半ズボンの足を抱えて体育座りをしたまま
身体を揺らす始末。

「・・秋。涼しくもなり、イベントごとには大変良い季節でーす。」

ポン!
何かを閃いたかのように、笑顔になる男。
きらりと光るサングラス。
その脳天には小さなヤシの木が、脳内のおめでたさを象徴するかの如く揺れている。

「大変良い事、決めましたーっ♡」

この男――風林館高校、学校長。
彼が笑顔で思い立った出来事で、
大変良かった事などかつて一度も無い――。


・ ・ ・


担任の女教師が、教卓に両肘をついて報告する言葉を
生徒たちは大して驚きもしないで聞いていた。
聞き流していると言ってもいいだろう。

「一応~、各クラスから代表者を決めて出せってぇ、校長先生 が言うんだけどぉ。
 どうする~?うちのクラス・・・立候補者、居る~?」
「先生、早乙女君で良いんじゃないですかー?」
「乱馬君なら、スタイル良いしー、何だって
行けそうじゃないですかー?」

「・・・は?俺ぇ?」

教室内で、好き勝手に発言するクラスメイトに、膝の上に漫画雑誌を乗せていたお下げが顔を上げる。
しかし、幼女の様な担任が、厚めの唇を尖らせる。

「あ~ダメダメ。それはダメなんだってー。飽く迄女子のみの参加だって校長に念を押されちゃったからぁ。もし女装した 男子が出たら、罰として
新しい校則が増えるって言ってたぁ。」
「「「「え゛ぇ゛~~~っ!!!」」」」

他のクラスでも、その話題で持ちきりなんだろう。
ちょっと時間を違えて、校舎内、あちらこちらからどよめきが漏れ出る。

「て、いう事で⊸、はい。改めて立候補はぁ?どうしてもって 言うんなら先生が」
「はい、天道さんにお願いしたいと思いまーす!」

ブーっと膨れるフグのようなちびっこ担任に構わず、1人の女子生徒が手を上げる。
そのままガタンと椅子を引いて立ち上がると、あかねに向かって顔を向けた。

「お願い、あかねさえうんって言ってくれたら、優勝は間違い ないのよっ!」
「えっ・・?で、でも、あたしっ・・・。」

その顔は本当に焦っている様で。
眉根を寄せて、その華奢な体を強張らせている。

「・・・止~めとけ、止めとけ。寸胴、凶暴、色気なし。三冠 王者のあかねが出たって
 良い事ねぇぞー?」

隣で、口に手を当てて、ヤジを飛ばすその顔は、小憎たらしい事この上ない表情。

「だったら、あんたが出ればいいでしょう!?
 変態男のあんた がっ!!」
「あぁっ!?人を女装趣味みてーに言うんじゃねーよっ!
 言っとくけどなぁっ、少なくても俺の方がよっぽど!こいつ よりかは色気が有らぁっ!」
「男のくせに、あんたっ、それで嬉しい訳っ!?
 やっぱり正真正銘のど変態って事じゃないっ!!」

ギャーギャーと言い合う17歳の高校生男女二人を避けて、クラスメイト達は
反対側へと集まり出す。

「やっぱりうちはあかねで決まりねっ。」
「ていうか、あかねを差し置いてこのクラスから誰が出るって 言うのよ~?」

ないないない、と同じ仕草で男女が首を横に振るさま。
打ち合わせも無いのに息もぴったりな様子は、某防衛大学も真っ青なシンクロぶりだ。

「・・・問題は、乱馬か・・・。」
「そうね、乱馬君ね。」
「それに、あかね。」
「あ、ソコは任せておいてっ?」

すっかりと飽きた担任が、黒板一杯に〇パンマンや〇ラえもんを書いてる室内。
唾を飛ばす様にして激しく言い合う二人を、いつの間にかクラスメイト達が取り囲む。
気が付きもしない程に頭に血が上った様子のあかねの肩を、さゆりが叩く。

「お取込み中の所、悪いんだけどさ、続きは家でやってくれ  る?乱馬君、うちのクラス代表はあかねって事で決定したか ら。」
「はぁっ!?」
「ちょっとっ!?みんなっ・・・」

反撃に出ようとするあかねの腕を掴んで、ゆかが引っ張る。
あっと言う間に、女子生徒の輪に囲まれるあかねの姿――
を、乱馬はさも“クソ面白くない”と言った表情でじっと眺める。

「時に乱馬。お前、さっきも言っとったが、あかねは本当に色 気が無いと?」
「あ?・・・・・・・・・んだよ、急に。」
「凶暴で、色気が無いからろくな事にならんと、
 そう言ったよな?」

真顔で男子生徒たちに詰め寄られた乱馬。
急に旗色が悪くなったのか、言葉が出ない。
チッと舌打ちをするとそっぽを向いた。

「お、俺は、別に・・・っ」

小さく口籠りながら、横目で確認すれば、さゆりがあかねに
何やら耳打ちをしているのが見える。
次の瞬間、あかねの表情が・・・いや、゛気“が強く変わったのが
乱馬に届いた。

じっと顎に手を当てて考え込むあかね。
〝おい、嘘だろ・・っ?“
そう思う乱馬の願いも空しく、あかねは頷いた。

「――・・・分かったわ。あたし、出る。」

「げっ・・・!?」

きっぱりとあかねが宣言すると、背中を向けた乱馬のお下げが飛び上がった。

「乱馬君、くれぐれも邪魔しないでよっ?」

女子生徒等に一斉に睨まれ、乱馬は冷や汗を隠して肩を竦める。

「だ、だ~れがっ!」
「言ったわねっ?」
「聞いたわよっ?」
「あ~でも良かったぁ♡これで優勝は2-Fねっ!」

「「「ミス・風林館(別名ミス・パンプキン)は頂きよっ!!!」」」

おぉ~~~っっ!!!
一斉に湧く鼓舞する声。
その中で「あたし、頑張るわっ!」握り拳を掲げるあかね。
その姿に大きく目を開いた後、ムッと口を尖らせたのは許嫁。

そして、着々と、〇カチュウやちび〇る子達で埋め尽くされて行く黒板。
そこだけ見ればまるで保育園さながらだ。

「ンじゃー、うちは天道さんで決まりねっ!」

ちびっこ担任が白くなった両手を叩けば、教室内に拍手が起こる。
その中でたった一人・・・乱馬だけが不貞腐れた顔で椅子にふんぞり返っていた。

・ ・ ・

ところ変わって校長室。
提出された書類を抱えてほくほく顔の男が判を押す。

「文化祭と一緒に出来なかったのは残念で―す。しかし、これは これで楽しいでしょー?きっと生徒たちも大喜びの
 はずでーす♡」

ニカリと満足げに笑えば、口許から白い歯がきらりと光る。

・・・そして、校長室の窓の外では乱馬がしゃがみ込んでいた。
何とかして中止にできないもんか、そう思って来ては見たモノの、存外に嬉し気な校長の様子に、仏頂面で下唇を突き出す。

〝ちっくしょう~・・これじゃ、校長の奴、引かねぇだろうなぁ~・・っ“

イライラとする気持ちの原因を特定する事もしない癖に、突っ走る男。
それがこの早乙女乱馬だった。
しかし、何の手立ても無いまま、乱馬はすごすごとその場を後にする。

吹く風は、完璧に北から。
首元を過ぎる寒風に、思わず肩を竦める。
・・・が。
背中を撫でる、ゾクゾクとする嫌な感触は、
季節の移ろいのせいだけではないと言う事。

――どこまで乱馬が理解しているのかと言えば・・・

「・・・くっそー・・!あかねのオタンコナスー!!」

どうやら、皆無の様だった。



続く




腹ペコ悪魔の甘いハロウィンの夜 - ひなた

2018/10/25 (Thu) 14:56:04

拙い小説を失礼いたします。お題に初挑戦。ちょっと乱馬君が若干キレキレですがごめんなさいm(__)m
このお話はR-15位の設定です……



「ぬわ~~にが、ハロウィンでぃ!!」

俺は一人言を夕暮れの空いっぱいに叫び散らす。

「ウ゛ーーワンワン!アオーーーーーン!」

するとどこからか俺の声に触発されたのか、あちこちから犬達が盛大に啼き始めた。

………泣きてーのはこっちなんだよ。

今日は異国の行事に乗っかってか、あちこちでイベントが開催され、様々な仮装をした奴等が街なかに溢れかえっていた。街のいたるところにはオレンジや緑色したかぼちゃが不気味な笑みでゴロゴロ転がっており、その傍らには飴玉にお菓子を配る店員。その店員はゾンビの格好をしていたり、魔女の服装をしていたり。街中がちょっとしたお化け屋敷の中にいるようなそんな世界に染まっていた。

「けっ!くっだらねー!」

なんで日本人というものは異国の文化にすぐ影響を受けてしまうのだろう。日本の文化はどうした?日本人として恥ずかしくないのか?影響されすぎなんだよ。だいたい聞けばハロウィンは日本でいうお盆の事らしい。なのにきゃーきゃーはしゃぎやがってる奴らに一言言ってやりたい!しっかりしろよ日本人!と。

別にイベントや祭り事は嫌いじゃない、しかし時と場合による。そう、時と場合に。

「よりによってなんで今日なんだよ……」

本日何度目かになる言葉と溜め息を吐く。季節の行事に八つ当たりしても仕方ないのはわかってはいる。
夕暮れ空は悲しい位に綺麗なオレンジ色をした雲が広がっていた。

今日は連日仕事だったあかねが代休を取り俺のアパートに朝からくるはずだった。しかし、昨夜なびきから突然電話が入った。その時、少なからず嫌な予感がしたんだよな。

『小さい扱いだけど乱馬君を取材したいってうちの出版社が言ってくれてね、ほら、今、格闘界がちょっとしたブームじゃない?だから知り合いにいるって話したら、是非取材をさせてほしいって飛びつかれたのよ。私に感謝してよね。あ、御礼なんて気にしないで頂戴。出世払いにしといてあげるわ。有名になったらたっぷり稼がせてもらうから。取材は勿論承諾したから。明日○○ってところに10時ですって私の面子もあるから必ず行ってよね』

そう。なびきは俺になんの承諾も取らずあっさりと勝手に決めたのだ。確かに正式な取材は初めて。今後の為にも受けたほうがいいのは百も承知。ただ、腑に落ちない事がある。なんで毎回あいつと約束を事前にしているとこうも邪魔が入るのだろう。まるで見張られているようだ。

しかもあろう事かなびきはご丁寧にそれをあかねに告げ、その後あかねから電話がきた。

「ちょっとおねえちゃんに聞いたわよ。凄いじゃない!どんな小さな取材だろうと皆に格闘に興味をもってもらえるチャンスね!しっかり取材受けてきなさいよ!」

こいつはこういうやつだ……
ちょっとくらい「あたしと格闘とどっちが大事なのよ」とか言われてみたいものだが、あいつがそんな事言うはずもなく。つうか、言われるところは想像もつかない。

「あ、じゃああたしもちょっと仕事やりかけのがあったから会うのはまた今度ね。あんたに負けてられないし。あたしも明日は仕事に行ってくるわ。あんたもしっかりね!」

と潔く本日の予定は見送りとなってしまった。わかってはいたのだが、軽くショック。あいつには少しでもいいから二人で甘い時間を過ごすという選択肢の余地は皆無だった。仕方なく取材に応じれば、格闘とはなんの縁もゆかりもなく、過去の妖怪退治について根掘り葉掘り聞かれる始末。な~にが『ハロウィン特集☆おばけ、妖怪退治に関わる者』だ!俺は純粋な格闘家だっ!
……なびきめ、いつか覚えていろよ。

あかねとはそんな擦れ違いからかもう二週間程会っていない。今日は久しぶりにあんなことやこんな事……いや、別にそれだけが目的じゃねーが、ゆっくり会うのは久しぶりだったし、あわよくば……なんて考えたっていいじゃねーか!

「ちぐじょー!なんなんでぃ!」

藍色に変化していく西の空。山に向かって帰るカラスの群れを八つ当たりのように睨み付ける。徐々に薄暗くなってゆく街並み。あぁ、今日も一日が終わってゆく。家々の玄関先にはポッと切なげな灯りが灯されてゆく。秋風は俺の心にぽっかり空いた穴に冷たい風をビュービュー音を鳴らしながら吹き荒んでいた。

「トリック オア トリート!お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞー!」

何処からか聴こえてきたのは子供達の声。その子供達はボロボロのシーツを被りオバケの格好をしたものや、吸血鬼、魔女、様々な仮装をしながら楽しそうに
家々を廻っていた。

「あらあら可愛いオバケさん達。ようこそ!はいはい悪戯されたら困るからどうぞ」と笑いながら小さい袋のお菓子を子供に渡すどこかの母親。それを横目で見ながら、悪戯か……。どうせならあかねに悪戯されてみてーとか悪戯してみてーとかおもっちまう俺は今、重症だろう。

カン、カンカン……築35年のアパートの錆びれた古い階段を重い足取りで上り、溜め息をつきながらやっとの事で自分の部屋のドア前にたどり着く。

(今度ゆっくりあいつに会えるのはいつになるだろうな……)

そう考えてしまうのは、今日会えない事に対して未だに未練がましく思ってしまっているんだなと苦笑い。明日からまたあいつは仕事だろう。俺もこの週末には遠征を控えている。高校を卒業して5年。その間に俺は修業の為に家を出る事も本格的に増え、天道家に甘えてばかりもいられないと言う理由から自立しようと家を出た。

まぁそれだけが理由でもないが、本当に下心がなかったと言えば嘘になる。誰にも邪魔されずにアパートであかねと……などと考えた事もあり半年前から一人暮しを始めたのだ。しかし現実は甘くもなく、俺は修業以外の時間は日雇いのバイト。炊事、洗濯、家事、をこなしながら、なかなか一人暮らしも手続きやら面倒なんだなと改めて思った。そう思うと、いつもどれだけ天道家に甘えてきたのかが沁々とわかる。

あかねが仕事を始めてからはあいつは慣れない仕事に残業の日々。最近じゃゆっくり会うのも難しくなった。そんな時ふと見付けたハロウィンのイベント。
「なんかハロウィンとかで賑わってるし、おめーが暇なら…た、たまにはイベントでも見に行ってみねーか?」とイベントに託つけて今日はあいつと会う約束をしたのだが。やっぱりこれだった。

一緒に住めばこんな擦れ違いにならねーんだろう。でも一緒に住もうなんて、あいつよりたいした稼ぎもねーのに、格好悪くて自分から言えるわけない。それにあいつには俺と違って住み慣れた家や大事な家族がいる。甘えさせてもらっといて申し訳なかったが、何時までも居候でいるのは気が引ける。だから家を出させてもらった。おじさんは俺とあかねが祝言前の予行練習も兼ねてと一緒に住むのを勧めてくれたのは有り難いがそれは俺がもう少しちゃんとしてたら考えたかもしれねーが、流石に今は色々できねえ。

もう、何度溜め息をついても今日も一人寂しい夕食をとることには変わりない。イベントに乗っかるつもりはないが先程某コンビニで売れ残っていたシチューポットパイがおれに寂しげにおいでと手招きし、肩を叩き、まぁ食えよと微笑んでいるように見え、つい買っちまった。……旨いんだろうか。歩く度に買い物袋のガサガサ喋る声が秋空に侘しく響く。

ポケットから鍵を取りだし鍵穴に差し込もうとした時だった。

(なんか焦げ臭せーな……)

夕食時だ、多分どっかで料理の失敗でもしたのだろうか?……あかねみたいなやつも中にはいるんだな。すると、再びむくむく自分の中にいる悪魔が顔を覗かせる。

ざまーみやがれ!イベントだからってな、甘い雰囲気や楽しげに俺を差し置いて過ごすなんて、俺は今日は楽しく過ごせねーまま一日が終わるんだよ!この気持ちを少しは味わいやがれ!わははは………はは……は、はぁ………。虚しい。

……誰にでも八つ当たりしてしまう自分は今、本当に最低な男だろう。取材の時、どす黒い心の声は漏れていなかっただろうか。どうか漏れていませんように。

本当、日頃の行いって大事だよな。

反省しながら鍵をあけ、ドアを開ける。すると何故か電気がついており、部屋中黒い煙が充満していた。

「へ?……うち?」

灯りを消すのを忘れたのか、まぁ、よくあることだが、しかしこの黒い煙はただごとじゃない……!火事か?なんでだ?ガスなんて今日は使ってな……………まさかな。
慌てて台所に向かう。するとそこには一人しゃがみこみ口を抑えて咳き込む人影。

「ゴホッ…ゴホッゴホッ……あ、乱馬、おかえり……もう!なんで?作り方見ながらちゃんと作ったのに、ゴホッゴホッ…換気扇つけなきゃ……!」

「……………お前来てた……の……か……?」

「……えっと……その、勝手にあがってごめんね。あたしも仕事が済んじゃって。今日出た分、代休明日に変えてもらえたの。べ、別に少しでも会いたかったとかじゃないわよ。勘違いしないでよね。ちょっとご近所さんにかぼちゃをいっぱいもらったからお裾分けに来ただけなんだから。………折角だしパンプキンシチューでも作ろうかと思ってたんだけどちょっと焦がしちゃったみたい」

「へ?明日……?シチュー?……か、かぼちゃってお前こんなに持ってこられてもな…俺一人で……」

「わかってるわよ。だから、」

「まてよ…………かぼ、ちゃ……」

「え?かぼちゃがどうかした?」

台所の床には大小様々なかぼちゃがゴロゴロ転がっている。それを見ていてある言葉を思い出した。

(……トリック オア トリートって確か……)

ぶつぶつと呟き、掌サイズのかぼちゃをひょいっと掴むと、緩んだ頬を抑えきれない自分がいる。

さぁ、ようやっと俺のハロウィンパーティの幕開けのようだ。

「あかね、トリック オア トリートな」

「へ?何よ突然。あぁ。お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ!とか言うやつでしょ?今日はハロウィンだものね。……どうしたのよ、いきなり。あんたがそんな事を言うなんて。あのね?子供じゃないんだからあんたにお菓子なんて用意してな……っ!」

「なぁ………なら悪戯してもいーんだよな?今日はハロウィンなんだろ?甘ーーいお菓子を食べる日なんだよな?」

「ちょっ!ハロウィンはそんなんじゃっ……!!」

「ちなみに明日までおかわり自由なんだよな?」

「お、おかわり?な、何言って……ちょっ!どこ触って……こんな台所で何しようとしてんのよ!」

「こっちのシチューはあとからデザート代りに食べるからよ、先ずはメインからでいーよな?俺、腹ぺこぺこでよ!」

「ちょっと!メインはシチュー!って……んっ……!」

「………わりーな、俺のメインはいっつもこっちなんだよ」

何かを察したのか耳まで真っ赤になるのは、俺の大好物の赤くて柔かな甘い甘いお菓子。
その口を今は塞ごう。
今夜から明日まで何度おかわりができるだろうか。

床には転がったかぼちゃ達。そしてその傍らには極上の甘く蕩ける蜂蜜とそれを美味しそうに貪る一匹の野獣の姿。

……うん。

ハロウィンはやっぱり最高の日かも……しれない。


END

内緒のオレンジ 2 - 憂すけ

2018/10/26 (Fri) 08:18:14

済みません、調子に乗りまして第二話です。
あっさりまとめる能力が無くダラダラと続く不甲斐無さをお許し下さい。(T_T)

。。。

一方その頃、下駄箱で靴を手にしたあかねの肩を背後から叩く者がいた。

「2-F代表はあかねちゃんなんやて?やっぱりなぁ。せやけどな、うちも負けられへんねん。」
「・・じゃぁ、やっぱり・・。」
「2-C代表は勿論、うちや。お手柔らかにな、あかねちゃん?」

ニカリと白い歯を見せるのは、乱馬のもう一人の許嫁。
そのままあかねの背後で、手にしたローファーをポンと地面に置いた右京。
スラックスを履いたその足先を突っ込むと、爪先が地べたを打つ。
コン、コンッ。
軽い音をさせながら、慣れた様子で、首筋の後ろに入れた手の甲で髪を払う。

学ランの背中で艶やかな黒髪がサラリと揺れると、あかねは何だか花の様な匂いを感じた。
無言で立ち尽くすあかねの様子をさして気にするでもなく
学ラン少女は軽く手を上げて立ち去っていく。
背中に差した巨大なへらが、光を受けて鈍く輝きながら遠ざかるその様を
暫く見送った後、それでもあかねは口を引き結ぶ。

「・・・あたしだって、負けないもん・・っ・・。」

小さく呟くと、鞄を胸の前に抱え直して、外へと一歩を踏み出して行った。


。。。


『ミス風林館・実行委員会』
太書きマジックの文字を見上げながら、さゆりは進路指導室の扉を引く。
エントリーは全学年の全クラスから代表女子生徒が一名ずつ。
衣装は各クラスで用意しても良し。
若しくは、演劇部からレンタルしても良し。
実際、クラスで調達となると全員からカンパを募らなければならない。
選択の余地もなく、衣装の申し込みに2-F代表としてやってきた。

「これって一体、何が入ってんのよ・・・?」

さゆりは呟いて、手に下げた紙袋を持ち上げる。

正直、衣装の数は限られており、人気の高い衣装はすぐに借りられてしまうだろう。
そこで、不公平感を極力減らす為に、実行委員会(生徒会役員が兼任だが)が決めたのが
くじ引きだった。
代表者が赴き、空き箱の中から、番号の書かれた紙を一枚引き抜く。
その番号の書かれた紙袋を手渡されて、代表者たちは各クラスへと戻る手はずだった。
一瞬、中を確認しようかと考えて目線を下げる。
が、さゆりはすぐにそれを改めて、歩き出した。
だって、もし万が一、ヒラヒラしたミニスカートが入っていたりしたらどうする?
きっとあの男が大人しく黙っているとは思えない。
大騒動のタネになりかねないモノを自分一人で確認する程、心臓に毛が生えているつもりはなかった。

「・・・どうか、乱馬君がぐうの音も出ない様な清楚な衣装であります様に。」

小声で唱えると小さく十字を切る。
キラキラと埃が光り、舞う廊下をそれでも進む背中は
何かを悟った様に堂々としていた――。

。。。

「わっ!可愛くないっ!?」

はしゃぐ声を後ろに聞きながら、乱馬の鼻の頭に皺が寄る。
〝は?可愛いのか!?可愛くねーのかっ!?どっちなんだっ!?“
思わず、椅子の上に立てた右膝を、右人差し指でトントンと打つ。

「・・おい、落ち着け、乱馬。」
「落ち着いとるわいっ!」

うんざりと言った声で諭されれば、間髪入れずに怒号が返る。
ピリリと殺気立つのは男子の群れ。
椅子に張り付いたまま背中で女子達の声を聴く乱馬。
それをやれやれと、眺める友人達。
そして、ソワソワと興奮を隠せないで、女子達を覗き見ようと背伸びをする
お調子者の勇気ある男が一人。その名も勇者大介。

「おっ!本当だな、メッチャ可愛いじゃんかー!あかねに似合うぞ、絶対っ!」
「ちょっと大介!やっぱ男子の目から見てもそう思う!?」
「勿論さっ♡」

そんな会話を繰り広げながら、ちゃっかりとさゆり達女子の輪に加わる悪友の声が届く度に、
乱馬の不機嫌オーラは色が濃くなり、膝を叩く指も激しさを増していく。

「パッと見サイズは大丈夫そうね。靴は黒の通学用ので良いとして。
 あとは、薄いメイクならOK出てるから、打ち合わせしちゃおっか。」

あかねを真ん中にした集団が、教室から出ていく。
この後、有志で集まってあかねの部屋で衣装合わせをするのだとはしゃぐ声。
イベント本番を翌日に控えて、嫌でもテンションががって行く女子達。

対して、どす黒いオーラが漂う一人の男が椅子に腰かけイラついて居る
・・・のと、それを遠巻きに恐々見守る男子達。
余りに対照的な2-Fであった。


。。。

何が一体、あんなに楽しいと言うのだろうか?
二階から時折漏れ聞こえて来る笑い声が降り注ぐたびに、乱馬の背中が妙に強張って行く。
一しきり響いた笑い声が止む。
そしてちょっとの静寂の後にはまた、誰かの声が聞こえてそれを合図に
笑い声が弾けて聞こえる。
午後七時を目前に、天道家のテーブルには着々と夕餉の支度が並べられていく。

「乱馬君、あかねのお友達にも良かったらお夕飯どうぞって声をかけて来てくれる?」

かすみの言いつけに、乱馬は黙って腰を上げる。
良いも悪いも無い。
自分はこの家では居候だ。

階段の下までさしかかった所で、上から扉の開く気配と、
他人がワイワイと出てくる気配に気が付いた。
そのまま黙って待てば、クラスの女子達が集団で降りてくる。

「あ、乱馬君っ。ごめんねー遅くまで騒いじゃってー。」
「・・・いや、あかねんちで皆飯食ってかねーかって。」
「いい、いいっ。せっかくだけど、明日本番だし、また今度にさせて貰うわ。」

どうやら、一番近い女子の家に皆で出向き、そこから車で送って貰えると言う事らしかった。
遠慮のない声で楽し気に下らない事を言い合う一団が、嵐の様に過ぎていくのを
乱馬は黙って壁側に避けてやり過ごす。
圧倒されていた。

「あー、乱馬君!明日は、ちゃんと応援してよ?」
「・・・は?」
「明日は多分、学園中の男子達の心を鷲掴みしちゃうわね、あかねがっ。」

途端に眉間に皺が寄る乱馬をチラリと視界に留め
「余計な事言わないで早く行くわよ!」
さゆりが友人達を促す。

「じゃぁ、あかね、また明日ねっ」
「「「お邪魔しましたぁ!」」」

居間へ向かおうとするあかねは、乱馬に顔を向けない。

「なぁ、おい。」
「・・・何。」

腕を掴むのも憚られ、ふと足を止めたあかねの前に回り込み
乱馬は俯いた許嫁の顔を腰を屈めて覗き込む。

下を向いたあかねの顔は、うっすらと化粧が施されている様で。
陶磁器のようなつるりとした頬が、控えめな桃色に色付いて居る。

「・・・・・・・・・似合わねぇの・・っ。」

そっぽを向くあかねの頑なさに腹が立つ。
屈託なく『似合う?』そう聞いてくれたら・・・いや。
きっとそれでも自分は茶化してしまうだろう。
でも、こんなにトゲトゲした気持ちにはならなかった筈だ。
笑って舌を出して、終わった筈だ。

「止めとけ、止めとけ。恥かく前によっ。」

八つ当たりにも似た感情が、乱馬を突き動かす。
何時もだったら、返す刀で殴り飛ばされるところだった。
しかし、一向に、あかねの拳は握り込まれたまま。

「・・止めないわよ。」
「あ?」
「止めないって言ったの。例えあんたにどう言われたって、あたしは――っ」

「そうかよっ!だったら勝手に恥でも何でも好きにかきやがれっ・・!!」

カチンとくるままに叫んでいた。
言い捨ててあかねを残して居間へ入る。
ドスンと勢いに任せて座布団に座れば、後から黙って横に座る許嫁。
黄色いカーディガンが視界の端っこにちらつくが、乱馬は嫌味の一つも口にしない。
黙って食事する2人を大して気にする風でもなく
つつがなく夕飯の時間は流れて行った。

一見、穏やかに。



続く

内緒のオレンジ 3 - 憂すけ

2018/10/27 (Sat) 11:33:58

何とかこれで終わる事が出来ました。
ダラダラと続いたこのお話しにお付き合い頂き有り難うございました!掲示板での投稿、とても楽しかったです!
管理人のゆりさんに心からの感謝を込めまして・・・! 
   m(__)m       憂すけ

。。。

翌朝、布団の中で重たい瞼を開くと、顔が寒い。
乱馬は腕を蒲団から出しっぱなしで寝たせいですっかりと冷え切った上半身を
ゆっくりと起こした。
部屋の中は薄暗く、カーテンを押しのけて迄差し込んでは来ない光量の少なさが
冷えた空気に拍車をかける。
何も思わないように心がけて、立ち上がる。
――が、その時点で、もう、乱馬が無心で居られていないという証拠だった。

神経を耳に集中すれば、居間や台所の方から、小さな生活音が漏れ聞こえる。
何時もと何ら変わらない朝。
ただ一つ。
乱馬の中に檻のように溜まった何かを覗けば――。

「お早う、乱馬君。」
「・・・・早うっす・・。」

廊下を歩きながら返事を返せば、見慣れたショートカットが玄関に見えた。

「行って来ます。」
あっと言う間に、早朝の歩道へと消えていくあかねに
何も出来ず、何も言えないまま乱馬はボンヤリ立ち尽くす。
チラリとも振り返らないあかねの背中が、何だか妙に頑なに思えて
乱馬は思わず奥歯を噛む。
〝何でぃっ・・厭味ったらしい態度取りやがってっ“
胸の中で毒づきながら、広く空いた席で茶碗を手に取る。

「あら、乱馬君、1人?」

サッサと朝食後の歯磨きを終えたなびきが顔を出すが、乱馬は構わず目玉焼きに醤油を垂らす。

「流石に気合入ってるわねぇ。優勝したらクラス全員分のご褒美と、受賞者特典があるんだっけ?」
「・・・・知らねぇ。」
「あらあら。あたしはてっきり、あかねの事だから・・・っと。」
「・・・なびき?」
「さーってっと。あたしももう行くわよ。準備があるし。余計な事言って火ぃ付けたくないもの。」

鞄を手に立ち上がると「じゃーね」と手を振り、おかっぱ頭が消えていく。

「・・・んだよ、なびきの奴・・・。」

何も聞いて居ない。
何も。
あかねは自分に何も教えて来なかった。
もしかしたら、昨日、教室で何か説明があったのかもしれないが、
覚えてもいない。

面白くない気持ち。
浮かれてるクラスメイト達へ、同調できない自分へも苛立つ。
だからと言って、知らない振りも出来ないのがこの男。

身支度を一通り済ませると、何時もと同じ様に外へ出る。
何時もと同じ様に、フェンスに上がると、何時もとは違い、
そこから一気に飛び上がる。

二階家の屋根の上。
忍者の様に音もたてずに走り抜ければ、お下げが空気を裂いて、小さく踊った。

コンクリート製の巨大な建物目がけて飛び降りれば、足の裏で砂が鳴る。


「ちょっと、乱馬君っ!」

鋭い声に横顔を向ければ、さゆりが自分を睨んでいる。
手ぶらな状態を見れば、わざわざ自分を待ち受けていたんだろうと乱馬は理解した。
次々と生徒たちが外履きを履き替えては消えていく下駄箱で
さゆりは、腕組みをしたままチャイナ男を睨んで待つ。
肩幅に足を開いて立つ姿からは、怒ってるのよオーラが漂って見える。

「乱馬君さ、あんた、あかねに何言ったのよ?」
「・・・・・な、何って・・・・っ。別に・・・。」

言い淀めば「嘘仰い!」ピシャリと諫められてしまった。

「良い?あかねはね、昨日まではやるきだったのよ?クラスの為に、それに」

〝・・けっ。何がクラスの為だ。あんの尻軽女が・・っ“

「呆れたっ!まさかそんな事あかねに言ったのっ!?」

無意識に小声で漏らしてしまった言葉に、さゆりが大きく目を剥いた。

「ち、ちがっ・・俺はっ・・・」
「俺は、何っ?」

詰め寄られても何も返せない。
だって、内容は違うが『止めろ』と言ったのだ。
『恥をかくから』と。
グッと言葉に詰まって俯く乱馬を前にして、さゆりが今度は腰に両手を当ててガクリと項垂れた。

「・・はぁ~~。ちょっともう・・・勘弁してよ、本当に。」
「なっ、何だよっ?俺が何言おうが、関係ねぇじゃねーかっ?」

背一杯の虚勢を張って言い返せば、ギロリと今度は睨み上げられる。

「言うまいって思ってたから、我慢してたんだけど。」
「・・・・何がだよ・・・っ?」
「乱馬君、何であかねが引き受けたと思うの?良い?あかねはねぇっ」


。。。


体育館は全校生徒が集まったせいか、意外と蒸し暑かった。
かなり大きめな造りの風林館高校の体育館。
それでも、ザワザワと話す声。
時折上がる、笑い声。
生徒たちが発する期待が、あちらこちらで空気を揺らす。
興奮はそこここで、小さな波紋を広げ、それがまた呼び水となって生徒たちの間をあっと言う間に駆け巡り、広がって行く。

一番前には一年生たちが、床にじかに腰を下ろして壇上を見上げている。
その後ろには2~3年生たちが、パイプ椅子を並べて座り、固唾を飲んでステージを見詰めていた。

その中で、乱馬は、広げた両膝に真っ直ぐ腕を伸ばしていた。
斜め前に、身体を乗り出す様にして、膝の上に拳を握り込む。
頭はガクリと前へ垂れ、見開いた目で見詰めるのは、磨き込まれて艶めく板の目――。


〝良い、乱馬君?“
〝校長からの提案は二つ。“
〝優勝者を出したクラスには、全員分のオレンジカード。え?知らないの?“
〝食堂の日替わり定食の事よ。食券がオレンジなの。それがこの学年が終わるまで無料になるの“


『さぁ、みなさーん!中間テストが終わってホッとしてる皆さんに、私からのプレゼントでーす!
 優勝したクラスには今年度いっぱい有効のオレンジカード!そして見事ミス風林館に選ばれた
 女子生徒には、校長権限を一日与えるスーパーミラクルオレンジカードをお渡ししまーす!』

「おぉ~~~~っ!!!」

体育館の空気が揺れる。
しかし、乱馬は俯いたまま。
微動だにしない乱馬の姿に、しかし、誰も気が付きもしない。

『では、エントリーNO1ばーーん!1-A!小兆ランさんどうぞでーす!』

1人目がステージに呼ばれると、歓声が沸き上がる。
同じクラスからの声援+他の生徒たちからの声だろう。
和気あいあいとした雰囲気に口笛と拍手が色を添える。

それらはけれど、乱馬の耳には入ってはいかないようだった。
じっと俯き、見開いた目の中には、今朝の下駄箱でのさゆりが映っていた。


〝あかねが出場を決めたのはね、乱馬君の為なのよ?“

思わず眉間に皺を寄せたままに、さゆりを見下ろしたあの時。
信じられない言葉が続いたのだ。

〝一日貰える校長特権。あかねが本当に欲しいのは「それ」なの“
〝何でか分からない?それがあれば、乱馬君が今までやらかして来たペナルティーを綺麗さっぱり。全部帳消しにも出来るのよ“
〝この先、乱馬君がどんな進路を選ぼうと、妨げは少ない方が良いだろうって“
〝だから。だから、あかねは—―“


『・・・・ではっ。二年生最後のエントリーで―す!2-F!天道あかねさーん!!どうぞでーす!!』

はっと意識が覚醒する。
乱馬が急いで目を上げると、そこには――

「・・・あかね・・・?」

しかし、そこに居たのは、ぎこちない笑顔を懸命に浮かべようとする姿だった。
何時もの生き生きとした活発さはなりを潜め、正直、精彩を欠いてさえ見えるのだ。

「ちょっと、どうしたのよ・・あかね・・っ?」

乱馬の隣の女子の焦れた様な呟きに、思わず拳に力が入る。

〝もしかして、俺のせい・・?“
〝俺が、あかねに言ったから・・?“

『止めとけ、止めとけっ。』
『だったら恥でも何でも勝手に好きにかきやがれっ!』

〝俺・・・っ、俺は・・・っ!“


『・・・止めないわよ』
『例えあんたにどう言われようと――』


――ガタンッ・・・!

「あかね・・・っ!!」

いきなり乱馬は立ち上がっていた。
自分でも何をしたいのかさえも分からないままだった。

「ちょ、おい!乱馬っ!?」
ぎょっとしたクラスメートが数人、腰を浮かせる。
もし乱馬が何かしでかしたら、きっと手には負えないだろう。
しかし、だからと言って野放しにもしては置けないのだ。
2-F男子生徒たちの間に、緊張が走る。

「・・・あかねっ・・・あの・・っ・・・俺っ・・・」

立ち上がったのは良いが、何をどう言って良いのかが分からない。
しかし、冷や汗を垂らしながら、両手を握ったり開いたりを繰り返す乱馬を
最初は茫然と、そして次に訝し気に、眉根を寄せて見詰めていたあかね。

そして、あかねは笑った。
ぷっと小さく噴き出して。

口元に手を当てて、小さく笑っていた。

頭からすっぽりかぶった、赤いケープが揺れている。


「・・・あかね、あの。・・・・すっげ―似合ってる・・っ。」

どよめきが体育館を満たしていく。
けれど、乱馬は否定しない。

「・・に、似合ってるっ。」
「・・・ほ、本当に・・っ?」

大きく目を見開くあかねを、一般席から見つめながら、乱馬は「う、うん」と頷いていた。
頭をガリガリっと掻くと、そのままストンと、席に腰を落とす。

一度小さく俯いてから、あかねはそっと顔を上げた。
頭からかぶった赤いケープ。
首元のリボンをそっと外せば、白い肩と鎖骨が現れて。
真っ白いチュニックは沢山のゴムで寄せられていた。
胸の下で絞られた、赤いスカート。
胸の前には交互に編み込まれた赤いリボン。
そして膝頭辺りまで白いソックスが伸びている。
籐の籠を折ったままクルリと回れば、ふんわりと赤いスカートが波を打つ。

「何て言うお見舞い日和かしら。でもこの風林館の森には狼が出るって聞いたわ。
 もし、悪い狼が出たとしても、きっと大丈夫ね。だって」

何時の間にやら、マイクスタンドの横に積まれた瓦の山の前へと移動する赤ずきんなあかね。

「・・・――・・はぁっ!!」

――ゴスン、ガチャガチャンッ・・!!

タオルの下の塊が無残に崩れ落ちれば、その前でニッコリと笑顔が弾けた。

「だって、この森で最強なのは、狼なんかじゃないんですもの。」

パチンとウインクをしてから、ローファーの踵を鳴らしあかねは袖へと消えていく。
舞台の袖からはける瞬間、無人のステージに向けて両の拳を引いて深々と一礼。
そう、武道の試合の後の様にキッチリと頭を下げてからの退場に
「すっげーーっ!!」
「格好いいーーっ!!」
「天道先輩――っ!!」
割れんばかりに沸き起こる、拍手と歓声と笑い声の中、
耳朶まで真赤に染め上げたお男が一人、
肩から下がるお下げ髪を揺らしていた。
小刻みに、プルプルと――。


。。。

「日替わりでもAじゃなくてB定食の方だって言うのが、校長らしいわよね。」
「・・・・・・・・・おー。」
「・・・ちょっとー。何時まで不細工な顔してんのよー。」
「誰が不細工だ、こら。」
「だったら、何でそんななのよ?」

「全く、もう」何て小さく呟くあかねの声を下から聞きながら、
踏みしめるフェンスに意識を集中しようと試みる。

〝何で?“
〝何で、だと?“

全く、もうは一体どっちなのだ。
そんな思いが、乱馬に溜息を吐かせるのだ。

「・・ほら又。言いたい事があるんなら言いなさいよね。」

分かっちゃいるが、そんな簡単に言えるもんでは無いのだ。
何せ、筋金入りの天邪鬼。
本音を吐露する事がもしかしたら一番の修行位に思えるような男。
黙って顰め面でフェンスを踏めば、いつも以上にギシリと金網が悲鳴を上げる。

「・・・本当に男らしくないんだからっ・・。」
「・・・んだと?」

あかねの前に、乱馬が飛び降りる。

「男らしくないからそう言っただけだけど?」
「くっ、お、おまーなー!」
〝ひ、人がせっかくっ・・珍しく素直に言葉にしようとっ“
乱馬が握った拳を震わせているのに気が付かない様に、あかねは歩き出す。

「でも、良かったわよね。皆、あんなに喜んでたしさ。」

何時も帰る同じ歩道。
暮れていく日差しが、帰り道を暖色に染め上げていく。
ムッツリと斜め後ろからついて歩く乱馬。
頭の後ろで手を組む癖のままに、黙って歩く。

「・・・・あんた、は・・・?」
「・・・・・・へ・・・?」
「・・・あんたは、嬉しい・・・・?」

打って変わって、おずおずと不安げな声が乱馬の動きを止めた。
ステージで吹っ切れたかのようにあかねが笑ったあの瞬間から
すっかりと何時もの調子を取り戻して見えた許嫁に
乱馬は正直・・安心していた。
ホッとしていた。

「・・・・あの、あかね・・・?」

でも。
本当は、違っていたのかもしれない。
でも・・・あかねの心の奥には自分が付けてしまった傷が
まだ、残っているのかもしれない・・・。

季節を先へと促す様に、夕方の空気は一段と冷たさを増していた。
その分、澄んだ景色が、一層、鮮やかに際立って輝く。
黄色。
茶色。
黒ずんだ赤。
そして、オレンジ。

舞い散る枯れ葉が、風に乗って吹き過ぎれば、あかねのスカートの裾
そして短い黒髪をなぶって揺らす。
白いうなじに唾を呑みながら、乱馬は思わず息を大きく吸い込んでは一気に吐いていた。

溜まった〝躊躇い“を自分の腹の奥底から外へ押し出す様に。
腹に巣くう、情けない程〝怖い“と思う気持ちを捨てたかった。

「・・色々、わ、悪かったな・・。」

無言で振り向く、小さな横顔に視線を定める。

「似合ってねぇなんて嘘だ・・っ。本当に、その、か、可愛かった、しっ・・・
 あ、あの・・っお、俺の為に・・おめぇ・・・・。」

大きく開いた瞳。
ゆっくりと睫毛が閉じる様。
ふっくらした頬を持ち上げる様に弧を描いて上がって行く小さな唇――。

〝嬉しい”という様な表情であかねは笑った。
〝良いのよ“という様に首をゆっくり左右に振った。

瞬間、強く吹いた風に、あかねが顔を向ける。
自分から視線を外して遠くを見る横顔に、乱馬の心は釘付けになる。

耳元の髪を押さえる、細い指も。
夕景に溶け込む様に立つ姿も。
全てが自分を惹きつけて止まないのだと
そう自覚した途端、ゴクリと喉が鳴っていた。

この先、自分に何ができるだろう――?
初めて乱馬は真剣に考えていた。

・・・目の前の美しいモノを、壊さないでいる為に――


「良かったね。お姉ちゃん、これから暫くはあたし達のお弁当から解放されるもの。」
「・・・あ、あぁ、うん。そうだな・・・。」
「それにさ、あんたがこの前頭から粉々にしちゃった校長先生の銅像の件も不問だって。あと、シャンプーが割った窓ガラスの件と、あんたが――」
「う、うん、いや・・・あのさ。」
「ん?」
「あのさ、あかね。――俺な?」

乱馬の唇が動くのを、あかねは驚いて見上げている。


全てを変えるオレンジ色が
2人の毎日も染めていく――。

乱馬の言葉に頬を真っ赤に染め上げていくあかね。
小学生が笑いながら横を通れば、慌てた様に歩き出す2人。

乱馬が一体どんな言葉を口にしたのか――?


それは、鮮やかなパンプキンオレンジが呑み込んだ

2人だけの

秘密の言葉――・・・。








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